教職員インタビュー

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第3回 教員インタビュー  牧岡 省吾 先生 

2013年11月28日(木)
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現代システム科学域長
牧岡 省吾 教授

んにちは。現代システム科学域環境システム学類2年生の菊田美月です。
今回のインタビューでは、私の所属する現代システム科学域の学域長であり、認知科学を専門としておられる牧岡省吾先生にお話を伺いました。私は1年生の頃から、牧岡先生の授業を受けてきて「とてもわかりやすくて、興味深い」と感じていました。そこで、どのように授業を構成していらっしゃるのか、また、現代システム科学域のこと、研究分野に関することや学生時代のことなど、色々なお話を伺って参りました。是非、お読みください。


受け持たれている講義に対して、どのような方向性・コンセプトで講義されていますか?

現代システム科学域の講義に関しては、入門的な講義と専門的な講義を両方持っています。私たちは現代システム科学域のカリキュラムを作るということを、かなり時間をかけてやってきました。現代システム科学域には情報、自然環境、マネジメントなど、様々な学問領域の先生がおられるのですが、その中で特に私が担当しているのは認知科学、認知心理学という分野です。現代システム科学域全体のカリキュラムの中で、人間に関わる科学的な見方を順番に教えていくことを考えて、講義を構成しています。

 

環境とサステイナビリティ

1年次の前期には「環境とサステイナビリティ」というオムニバス形式の授業があって、それは現代システム科学域の全員が受けます。そこでは“現代 システム科学域の学生全員が知っておくべきことは何か”ということを考えて構成しています。授業の最初の4回分を私が担当しているのですが、“人間というのは一体どんな存在なのだろう?”という非常に根本的な疑問から出発し、皆さんの興味を引き立てる内容を話したいなと思って構成しています。そのときに、自分自身のやっている認知心理学、認知科学の範囲内だけで話していると範囲が狭過ぎるので、もっと広いところから話そうとしています。講義の中では生物の種という意味で、“人間”ではなく“ヒト”という言い方をすることが多いのですが、“ヒトはどのような存在なのか”“どのように進化してきたのか”ということを、まずは扱います。それが現代システム科学域全体でサステイナビリティを学んでいくための基礎の部分になると考えています。“私たちは生物としてどんな存在なんだろうか”ということを、まず考えましょうということで授業を作っているわけです。

授業の内容を考える際には、これまでの自分の授業の中での反省などを踏まえています。例えば、私が以前に指導した学生で今は大学院で研究しているとても優秀な人がいるんですけれど、その人が卒業する頃に話していた時、“人類がいつ生まれたのか”“宇宙がいつできたのか”ということを知らないということがわかったんですね。これぐらい優秀な人でもそういうことを知らないで生きているんだということがその時、結構ショックでした。きっと高校の時に、どこかでは聞いているとは思うんですが、“特に重要でない知識”として抜けていってしまっているんだと思います。でも、これから私たちが現代システム科学域というものを作ってサステイナビリティについて考えるというとき、そういう時間のスパン、“人類はいつごろ生まれたのか”“宇宙ができてからどのくらい経っているのか”というところは共通する知識として持っておく必要があると思いました。ですので、「環境とサステイナビリティ」の授業では、宇宙の起源、人間の起源というところから教えていき、その中で人間というものを位置付けるというコンセプトで構成しています。

 

人間環境科学入門Ⅰ

1年次の後期では「人間環境科学入門I」という授業をしています。これは私1人で担当している授業で、現代システム科学域の中では環境システム学類では必修、他の学類の人は他学類専門科目で受けられるという形になっています。この授業では、人間に対する科学的知識がどうやって得られるのか、人間を測定した り、人間の脳の中で起こっていることを推測したりする方法論について、きっちり学んでもらいましょうということを念頭に授業をおこなっています。なので、少し内容が専門的になっているわけですね。将来、心理学や認知科学を専門的に勉強するとは限らない人たちも含めて、人間に関してどうやったら信頼性のある データが取れるのか、どういう方法論で研究できるのかというところをまず学んでほしい、そこのところは環境システム学類の学生全員にわかっていてほしいと考えて作っています。テキストとしては、東京大学出版会が出している『心理学』というものを使っているんですけれど、このテキストが結構難しいんですね。難しいけれど、内容が豊富で充実しています。ただテキストを読んでくださいというだけではわからないと思うので、テキストの内容のエッセンスのストーリーを抜き出して、テキストの中に足りないことを必要に応じて補って教えていくという形をとっています。やっぱりストーリーがないと理解がしにくいんですよね。ストーリーと言っても、小説のようなストーリーがあるわけじゃないんだけども、こういう理由があってこういう方法論を使ってこういう研究をすると、こういう結果がわかりますよ、という流れが読んでいるだけだとわかりにくいので、それを順番に説明していきます。そのときに気をつけているのは、できるだけ興味を持ってもらうということです。教材として作られたDVDや、YouTube等にあがっている実験や動物の観察の様子などをどんどん見てもらって、興味を持ってもらうことを心がけています。例えば、赤ちゃんの実験の様子を授業の最初に見せるんですが、これは皆さんから興味を持ってもらえます。その実験のビデオでは赤ちゃんにキラキラした瓶を見せるんですね。その瓶を赤ちゃんがじーっと見る。そのじーっと見ている時間がどれくらい続くかというのを測ったりするのですけれども、赤ちゃんが凄く目を輝かしてキラキラの瓶を見ている映像が凄く良くとれています。まさに私たちが学ぶということの始まりが、赤ちゃんの頃に様々なことを学習するというところから始まっているわけですよね。自分の外にある世界がどういう風にできているのか、赤ちゃんは知らないわけです。自分が何かを掴んでいる、これが自分の手である、ということすら、自分で学びつつある時期です。そういう時期の、“何にでも好奇心のあるような在り方”を感じ取って、楽しんで学び続けてほしいという意味も込めています。

 

授業の進め方

授業の終わりに質問をカードに書いて提出してもらって、次の授業でその質問に答えるということを心がけています。これには2つの意味があって、1つは皆さんが疑問に思っていることに答えることで学んでもらうということで、もう1つは、質問をもらうことで教員の側が授業の改善に役立てるということで す。一度講義のスライドを作ると、毎年の講義の内容はそれほど大きくは変えません。もちろん、新しくわかったことを付け加えたり、ここはこう整理した方が教えやすくなるなどバージョンアップはしていくのですが、基本的なストーリーはそんなに変わりません。ですが、それだけでやっていると授業がマンネリになってしまいます。皆さんから質問をもらってそれに対して回答することで、自分としてもそれに対する新しい見方ができたり、そこで新しくスライドをいくつか作ることによって、また色々気付くことがあったりします。それをその授業以外のところでも反映させたりすることによって改善をすすめています。

 

どうして認知科学を研究しようと思われたのですか?

そうですね……子供の頃から自然科学一般が好きで、色んな本を読んでいました。
ですので、研究がしたいというか科学者になりたいなというようなことは子供の頃から思っていました。けれども、思春期、中学高校の頃に、“何で意識をもつ 人間という存在があるのだろう?”というような興味というのがはっきりと強くなってきました。従来の学問の枠だと、哲学という分野がそういった人間存在の根本を考える一番メインの学問になるわけなんですが、哲学の範囲で行われていることではっきりとした答えが出るのかというと、なかなか答えが出ないだろう、ということがだいたい漠然とわかりました。その中で、違ったやり方をすると、答えの出方は少し違うけれども、自分としては納得できるような答えというのがある程度出てくるのかな、みたいなことを、大学に入ってからはっきりと思うようになってきました。哲学などの勉強も考えつつ文学部に入ったのですが、 大学に入って色々本を読むうちに、その当時(私が大学に入ったのは1985年ですけれど)、新しい学問として出てきていた“認知科学”という考え方に惹かれました。人間の内部について外部から色々とデータがとれるようになってきているので、人間を外から見る認知科学のやり方が自分には向いているし、自分の知りたいこともわかるだろうと思って、そちらに進んできたという感じですね。

 

 ■研究で大変なことは何ですか?

一番大変なこと……それ難しいですねぇ。色々大変なので……(笑)。一番大変なことというか、一番大事なことっていうのはやっぱり何を研究すべきかというのを見つけることですよね。でも、それを考えるというのは、その世界が好きで入っているので、大変というよりは楽しいことではあります。ただ、その後の 研究がうまくいくとは限らないですよね。自分はこっちがいいと思ってやってみてもうまくいかないことはたくさんあります。ですので、何が大変かというと、思ったようにやってみても、うまくいかないことがたくさんあるということが大変ですね。

あとは、私たちが論文を書くときには必ず査読というのを受けることになっていて、論文を他の研究者の人たちが読んで、「これはOK」とか「これはダメ」 とか言うわけなんですけれど、自分が「これでいい」と思っていても、「これはダメ」と言われることもやはり必ず起こるので、それは大変つらいです。自分の研究が受け入れられない、否定されるという経験は、査読される以上必ず起こることです。自分も他の人の論文をダメと言ったりすることがあるわけで、お互い 様なんですが、それをされると大変つらいというのはありますね。


やりがいは何ですか?

やっぱり知りたいことについて考えることができる、考えて実験などで検証した結果、どうもそれが実際に人間の中で起こっていることのようだ、みたいなことを見つけられることですね。

 

学生時代はどのように過ごされていましたか?

色々ですけども、本を読むのが好きで色々読んでいました。あとは、旅行とか山に登ったりするのが好きなので、バイトしてお金を貯めて旅行にいったりとか、テントを持って登山に行ったりしていました。旅行等に行くために色々とバイトをしたのもいい経験だったなぁと思っています。例えば、凄く面白かったのが、山梨県のレタス農家の住み込みのバイトです。そこではレタスを夏に収穫するのですが、2週間くらい住み込みで行って、農作業のお手伝いとかをするんですね。住み込みなので生活費もかからないし、お得なバイトだったのですが、そこの家の子ども達と仲良くなったりして楽しい経験ができました。あとは御中元の配達を自転車でするとかもしました。大学の学年が高くなってくると、家庭教師とか割りのいいバイトが見つかって、大学院に入ってからは専門学校で教えたりするようになって、それは今やっていることとあまり変わらないのですが、学部生の間に色んなバイトをしたのは、今の仕事とは違ういろいろな仕事ができたということで、すごくいい経験になりましたね。

 

学域学類制になって2年が経とうとしていますが、学部学科制の時との違いを実感することは何かありますか?

それについては、私は現代システム科学域をつくってきた立場なので、なかなか客観的には言いにくいところがあります。学部学科制との違いについては、違うようにしようと思って作っているので、実感するというよりは、“こういう風に作った”というような感じが強いです。学域学類制のコンセプトは「広くしましょう」ということでした。現代システム科学域であれば、以前は人間社会学部や経済学部におられた先生方が多いのですが、工学部、生命環境学部、理学部、総合リハビリテーション学部、看護学部から参加された先生方もおられます。なので、非常に広い範囲のことを学域で学んでもらえるようにした、というのが今までと大きく違うところですね。カリキュラムについても、そういう広い範囲の学びを混乱しないようにどうやって作るかというのをいろいろ考えて作ってきました。それが上手くいっているかどうかというのは、まだ最初の学域生が2年生なのでまだ十分にはわからない感じではありますが、だいたい上手くいっているんじゃないかなぁと思っているところです。あとは、教員同士だと、今までは他の学部の先生と話す機会があまりなかったけれども、いろいろ話すようになって、すごく刺激を受けるところが多いです。

 

環境システム学類は“人間”と“社会”と“環境”という3つの課程で構成されていますが、例えば臨床心理学と環境学というのはかなり違うものに感じられます。人間の心理と環境というのは、どのような繋がりがあるのでしょうか?

たしかに、すぐに直結するわけではありませんよね。たとえば臨床心理学などで扱うこころの問題は、個人の中だけで起こっているとは限りません。それは社会とのつながりというところで起こることもあります。その社会というのは人間だけでできているかというと、そうではありません。社会はその土地の自然環境に根差してできているわけですから、場所によって社会の在り方も違うし、その人の日々経験している風景というのも違ったりします。その人の育った環境の中で、例えばどんなお祭りがあるのかというのは、そこの自然環境によって変わってくるわけですし、どんな風景なのか、海があるのか、山だけなのかというのも違ってきます。そのあたりが、(私は臨床心理学の専門ではありませんが)おそらく臨床心理学のなかでは割と大きかったりして、自然の在り方というのが社会を介しながら人間に影響を与えているというところで、環境と人間というのは繋がっているのですね。

臨床心理学や認知科学を学ぶ上で、バックグラウンドとして自然科学や自然環境のことを知っているということはとても大きいです。それを知らないで人間のことだけを見ていると、どうしても視野が狭くなってしまいます。人間が生きていくにあたって必要となる条件として何があるのかというとき、人間の中だけで考えていると、例えば、お金や住居などがぱっと思い浮かぶわけですが、自然というレベルで考えてみると、食料がどのように生産されているのか、今の気候はどういうふうに成り立っているのか、ということまで考える必要が出てきます。逆に、自然科学について研究している人にとっては、サステイナビリティ(持続可能性)というものを考える上で、人間というのはどんな存在なのか、人間というのが何を欲しているのかというのはとても大事です。人間が快適に生きていくには何が必要なのか、それは物質的な快適さだけでは成り立たないので、精神的な快適さは一体何なのかということはお互いにわかっていなければならないことだと思います。

 

学生のうちにしておくべきことは何ですか?

これ難しいよね(笑)。うーん……。僕もこういうことを誰かが言ってるのを学生時代に読んだりしたけども、「ふーん」みたいな感じで「そんなの出来たら苦労しないよ」みたいなところもあったのですけども、一応言うと、1つはやっぱり海外に行く経験というのはあった方がいいと思います。海外に行かない場合は、海外から日本に来ている人と交流する経験をするなど、自分とは違うバックグラウンドを持った人とコミュニケーションをしたり、あるいは全然違う土地にいってその土地の雰囲気を感じることは学生のうちぐらいにしておいた方がいいんじゃないかなと思いますね。今、海外インターンシップの企画とか色々やっています。そういった企画に是非参加されるといいんじゃないかなと思います。

あとは、色々学んで調べていく楽しさみたいなものを得てほしいということがあります。学生のうちにゼミなどで発表するときに、自分で調べるという経験があると思います。そのときに、「これくらい調べたらいいかな」「他の人はこれくらいで発表してるし、だいたいこのくらいでいいかな」というところよりも、一歩二歩進んで調べるということをやってみるとすごくいい経験になると思います。「『とりあえずこの文献を読め』って言われたけど、この文献に引用されている別の文献を読んでみよう」とか、「その文献を読んだら、またここで違うことが書いてあるので別の文献を読んでみよう」というように、言われたことよりも進めて自分で色々計画してやっていくということが、すごく大事です。就職ということを考えても、このことはすごく役に立ちます。大学のうちは、先生に言われたことの100のうち70か80くらいやればいいというのが、多くの人の感じかなと思います。でも、そこで120やってみるとすごくいい経験になるわけです。仕事の場合でも120やるというような仕事のしかたをすると、会社のなかでも絶対伸びていきます。ただ、全部120やると倒れてしまうので(笑)、自分の好きなことを選んで、どこかで120やってみるというのがいいんじゃないかなと思います。

 

学生へのメッセージをお願いします。

私達の専門分野の中でわかってきていることとして、“ヒトというのは学習するのが好きな動物だ”ということがあります。最初の方で、赤ちゃんの話をしましたが、赤ちゃんも学習するのが好きです。赤ちゃんがまだ歩けない頃から、色んなものを触りたがって、舐めてみたり、色んなことをします。これは学習しているんですね。自分の手に対して動かそうという指令を脳が送ったら、実際どう動くかのか、動いた手はどう見えるのか、それによってその持っているものはどういうふうに見え方が変わるのか、ということを一生懸命学習します。学習しないと、手で何かを持ったりできないわけだから、そのための学習をしているわけです。それで、色んな刺激が入ってきたらすごく楽しいのです。赤ちゃんは遊ぶものが全然なかったら、つまらなくて泣き出しますよね。そこで親とかが何かおもちゃを与えたりするとすごく喜びます。刺激が入ってきてそれがわかるようになると嬉しいわけです。その性質を人間が持っているということをうまく活かして、大人になってもどんどん新しいことを学んでいくと、人生楽しいわけですよね。学ぶことがなくなると、退屈になってしまって、面白くないというふうになります。大学に入って、「受験勉強も終わったし、もうこれ以上勉強することない」と思ってしまうと楽しくないのでは、と思います。今自分が何を勉強したら楽しいのか、ということを大学にいる間に色々見つけて勉強していくといいと思います。それは一生楽しめるわけです。会社に入っても、そこでいろいろ勉強することがあるし、どんな仕事をしていても、その仕事をする中で勉強することはあります。仕事だけではなく、趣味で料理をするということでも、どんどん上手くなれば楽しいわけだし、そういう楽しみ方をするきっかけというのを是非大学にいる間にたくさん作れたらいいと思います。

 

インタビューを終えて(学生スタッフより)

インタビューを通して、自分の受けてきた授業(「環境とサステイナビリティ」や「人間環境科学入門I 」など)が、先生の綿密な考えをもとに構成されていたということを知りました。普段、自分たちが何気なく受けている授業には、それぞれの先生方の思いや工夫が組み込まれているのだということに、改めて気付かされました。また、“人間というのは学習するのが好きな動物だ”ということがとても印象的で、将来自分がどのような職業についたとしても、新しく何かを学習していくこと、そして学習することを楽しむということが、これから生きていく上で大切になるのだと感じました。学生時代のお話や研究に関するお話など、たくさんのお話を聞かせていただいて、とても充実したインタビューとなりました。牧岡先生、貴重なお話をどうもありがとうございました。